1. 表面処理とは? さまざまな表面処理の種類

材料の表面を研磨や塗装、めっき、熱・化学処理などの方法で処理加工することを「表面処理」と呼び、その種類は多岐にわたります(表1)。
処理法 | 主な採用目的 | ||
大分類 | 中分類 | ||
清浄 | 洗浄 | 湿式洗浄、乾式洗浄 | 油脂類の除去 |
除錆(せい) | 浸漬除錆、ブラスト、液体ホーニング、バレル研磨 | スケールの除去、さびの除去 | |
研磨 | 機械研磨、化学研磨、電解研磨、化学機械研磨 | 平滑光沢化 | |
エッチング | 化学エッチング、電解エッチング、乾式エッチング | 表面形状の創製 | |
ショットピーニング | 中・低速ショット、高速ショット | 耐疲労性、スケールの除去 | |
印刷 | 凸版印刷、凹版印刷、平板印刷、孔版印刷 | 表面加飾 | |
塗装 | スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、粉体塗装 | 耐食性、装飾性 | |
ライニング | 樹脂ライニング、ガラスライニング | 耐食性、耐摩耗性 | |
湿式めっき | 電気めっき、化学めっき(無電解めっき) | 装飾、耐食性、耐摩耗性 | |
化成処理 | りん酸塩処理、りん酸鉄処理、クロメート処理 | 塗装下地、耐食性、摺動特性 | |
陽極酸化 | 鉄鋼への陽極酸化、非鉄金属への陽極酸化 | 耐食性、耐摩耗性、着色 | |
乾式めっき(気相) | 物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD) | 耐摩耗性、摺動特性、光学特性 | |
イオン注入 | 高エネルギー注入、中エネルギー注入 | 電気特性、耐摩耗性、耐熱性 | |
溶融めっき | 溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき | 耐食性 | |
表面熱処理 | 表面焼入れ、浸炭焼入れ、窒化処理、拡散浸透 | 耐摩耗性、耐疲労性、摺動特性 | |
溶融処理 | クラッディング、アロイング、グレージング | 耐摩耗性、耐熱性、耐食性 | |
溶射 | ガス式溶射、電気式溶射 | 耐摩耗性、耐食性、耐熱性 |
表面処理による材料表面の改質形態には、除去加工と付加加工の2つがあります。除去加工は、材料表面の付着物、もしくは材料そのものを削る処理方法です。付加加工のための前処理として利用される「洗浄」や「除錆(せい)」、表面の特定部分だけを物理的または化学的に削ってパターン化する「エッチング」、表面を鏡面化する「電解研磨」や「化学研磨」などが該当します。
付加加工は、除去加工以外の全ての表面処理が該当し、表面処理の本質といえます。付加加工は表面の改質現象の違いによって次の5つに分類できます。
1:表面の化学成分は変わらず、金属組織が変わる付加加工
「高周波焼入れ」や「炎焼入れ」などの表面焼入れが該当します。表面焼入れは表面を急速加熱・急速冷却するだけで、表面の組成は全く変化しません。しかし、表面の金属組織は変化し焼入硬化するため、耐摩耗性および耐疲労性は著しく向上します。
2:表面で化学反応する付加加工
「陽極酸化」や「化成処理」などが該当します。アルミニウムを陽極酸化した場合、表面にアルミニウム酸化物Al2O3層を生成して、耐摩耗性や耐食性が向上します。また、化成処理で得られるリン酸亜鉛層は、防錆(せい)、塗装下地、塑性加工時の潤滑などの効果を発揮します。
3:表面に他の物質を載せる付加加工
「めっき」、「塗装」、「ライニング」など、多くの種類の表面処理が該当します。材料表面に基材とは全く異なる処理層を形成する表面処理です。基材と処理層の境界が明確なのが特徴です。
4:表面から他の元素を染み込ませる付加加工
熱拡散によって他の元素が表面から染み込む表面処理で、「浸炭処理」や「窒化処理」が該当します。元素濃度は表面から内部に向かって減少し、基材との明確な境界は存在しません。
5:表面に他の物質を載せ、さらに基材との境界には元素を染み込ませる付加加工
「溶融亜鉛めっき」や「熱CVD」などが該当します。一般的な溶融亜鉛めっきの場合、純亜鉛によって形成された最表層の下に、亜鉛と鉄の合金層が生成されます。
前掲の表1の「主な採用目的」欄を見てもわかるように、表面処理の目的は、複数存在します。これには、次のような理由があります。
・1つの表面処理から複数の効果が得られるため
・同じ表面処理を施しても、対象となる製品や部品の使い方によって目的が異なるため
・表面処理の種類(表1の「中分類」)によって、採用目的が異なるため
2. 表面処理の選定方法
既存の製品や部品に対して、常にそのままの状態で表面処理ができるとは限りません。製品や部品を構成している材質や、寸法、形状、作業工程の変更が求められるなど、表面処理を利用するための条件はさまざまです(図1)。
表面処理により、優れた特性が得られるとしても、製品や部品との相性が悪く、また使用環境や使用条件に適合していなければ、その効果は半減してしまいます。それどころか、逆効果となった事例もありました。それを防ぐには、個々の表面処理の特性を十分に理解しなければなりません(表2)。

分類 | 名称 | 処理温度(℃) | 処理による変形または変寸 | 複雑形状製品への均一処理 | 非鉄金属製品への適用 | セラミックス製品への適用 | プラスチック製品への適用 |
電気めっき | Znめっき | 15~30 | ○ | × | ○ | × | × |
Crめっき | 45~60 | ○ | × | ○ | × | × | |
化学めっき | Ni-Pめっき | 70~90 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
Ni-Bめっき | 60~70 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
PVD | 真空蒸着 | 室温~200 | ○ | × | ○ | ○ | ○ |
スパッタリング | 室温~500 | ○ | × | ○ | ○ | ○ | |
イオンプレーティング | 100~500 | ○ | × | ○ | ○ | △ | |
CVD | 熱CVD | 500~1200 | × | ○ | ○ | ○ | × |
プラズマCVD | 100~600 | ○ | △ | ○ | ○ | × | |
表面熱処理 | 高周波焼入れ | 900~1200 | △ | × | × | × | × |
ガス浸炭焼入れ | 850~950 | × | ○ | × | × | × | |
ガス窒化処理 | 500~600 | ○ | ○ | △ | × | × | |
イオン窒化処理 | 500~600 | ○ | × | ○ | × | × | |
炭化物被覆 | 500~1200 | × | ○ | × | × | × |
○:あまり問題ない ×:かなり問題がある △:問題は少ないが工夫を要する
実際には、次に挙げる6つのチェックポイントに十分に留意した上で、表面処理実施の可否を決定し、最適な表面処理を選定します。
ポイント1:基材(製品や部品を構成している材料)と利用したい表面処理との相性はよいか?
銅製品には「めっき」は有効であるものの、「浸炭処理」や「窒化処理」との相性は悪く、不可とされています。
ポイント2:利用したい表面処理によって、基材の劣化は生じないか?
処理温度が高い場合、材料の種類によっては基材が軟化、脆化、変形などを生じる恐れがあります。
ポイント3:対象製品や部品の表面状態は、利用したい表面処理に適しているか?
表面が油脂類やさびなどで汚染している場合は、全ての表面処理の障害になるため、あらかじめ除去する必要があります。また対象製品の表面粗さは、「塗装」や「溶射」のように粗い方が有利な場合と、「PVD」のように滑らかな方が有利な場合があります。
ポイント4:対象製品や部品の形状は、利用したい表面処理に適しているか?
形状が複雑な製品や、細孔内面や隙間側面などに表面処理を施さなければならない場合、「電気めっき」や「PVD」によって、全面を均一に処理することは難しく、不可とされています。
ポイント5:利用したい表面処理は、処理対象となる製品や部品の使用環境に適合しているか?
「高周波焼入品」は、使用温度が200℃以上になると軟化現象を呈するなど、注意が必要です。
ポイント6:利用したい表面処理によって得られる効果は、コスト面で過剰品質にならないか?
表面処理を施すことで効果が得られる半面、当然コストアップになります。モノづくりにおいては、見過ごすことはできません。